2010年10月14日木曜日

【本】ホームレス中学生
















ホームレス中学生
<田村裕・ワニブックス>

随分前に読んでアップするのを忘れていました。
あのお笑いコンビ「麒麟」の田村さんが書かれた本で、
ドラマにもなりました。

この本の中で一番印象に残ったのが「奇跡の発見」という章。
“噛む”ことの大切さ!?素晴らしさを教えてくれます。

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…お兄ちゃんの提案でもっとお米を噛めば、
満腹中枢が刺激されて、少ない量でも満腹感を得られる
のではないかということになった。腹が減っているので、
がむしゃらにかっ食らいたいのを我慢して噛む。
噛む田村兄、噛む田村姉、噛む田村弟。

…恐らく一口のお米を5分以上は噛んでいた。

お米を噛んでいると、ほのかな甘い味がするのだが、
噛めば噛むほどにお米の甘さが増してくる。
そのままかみ続けていると味が薄れていき、
やがて完全に味が無くなる。最初はそこをゴールと呼んで、
みんなでゴールを目指した。

…お姉ちゃんはゴールに到達しても、噛むのをやめなかった。
黙々と延々と無表情に、ご飯を噛み続けるお姉ちゃん。
ゴールに到達して、それでもやめずに噛み続けると、
しばらく無味が続く。
当たり前の無味。真っ暗な暗闇を歩き続けるような
不安な状態。もはやお米達はもともとは自分達がそれぞれの粒
であったことなど完全に忘れ、ドロっとした液体になっている。
それでも飲み込まずに強い意志を持って噛み続ける…
噛み続ける…噛み続ける…。
信じる…いや、信じたのだ。お米の可能性と自分の可能性を。
他のことは何も考えずに舌に全神経を集中させて、
噛み続ける…噛み続ける…噛み続ける……。

すると無表情だったお姉ちゃんの顔が、フワッと明るくなった。
まるでモナリザのような、安らかな美しい微笑が浮かんだ。
そしてお姉ちゃんは大きな声で「今、一瞬味がした!」と
叫んだ。驚くお兄ちゃんと僕。

「味無くなったから飲み込もうかと思ってんけど、噛み続けたら
味がしたよ!ほんの一瞬やけれど、フワッと味がしたよ!!!」

あまりに幸せそうなお姉ちゃんの言葉に半信半疑ながらも、僕と
お兄ちゃんも噛んでみることにした。
すると、確かに一瞬だが、味がするではないか。
何と信じがたい事実だが、ゴールはスタートでしかなかった。

僕たち三人は一心不乱にお米を噛んだ。
確かに、確かに、突然に一瞬だけフワッと味する瞬間がある。
真剣にお米のことを信じて噛み続けた者だけが到達できる、
瞬間の味のきらめき。これを田村家では「味の向こう側」と呼んだ。

それ以来、みんなお米を噛みまくって「味の向こう側」を目指した。
そして「味の向こう側」に何回も行った。
一口10分以上、1膳2時間ぐらいのペースだった。
「味の向こう側」にたどり着くことができたのは、
誰よりも農家の人よりもお米の可能性を信じたお姉ちゃんの
ウルトラCだった。

こうして田村家では一膳で二膳分ぐらいの満腹感を得ることに
成功する。僕はお姉ちゃんに、諦めない心というものを教わった。
信じて走り続ければいつか願いは叶うことを、目の前で実践して
教えてくれた。

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